日本を代表する抽象画家 堂本尚郎
私が現代美術、特に戦後の抽象表現主義やアンフォルメルといった抽象絵画に心を奪われていた1980年代、国内にこんな作家がいたのか、と驚きをもって出会った作家が堂本尚郎です。国内の作家として一番初めに紹介したかった現代美術家です。
堂本尚郎は1928年京都市出身で、日本画家として画業をスタートさせました。渡仏後、油絵やアクリルを用いた抽象絵画に転身し、その作風は晩年に至るまで常に変貌を遂げています。
彼の伯父は日本画家の堂本印象で、ご息女には同じく抽象絵画を制作されている堂本右美氏がいます。彼女も私の好きな現代美術作家の一人です。

堂本尚郎の初期の抽象作品(1950年代中~後半)は、‘集中する力(1958)’ のように重厚で大きくうねったマチエールが特徴の油絵です。その後、1960年代になると ‘二元的なアンサンブル’ シリーズを経て ‘連続の溶解’ にみられるように、単色に地塗りしたキャンバス上に規則的で力強いタッチの筆跡を連続させていく無機的とも思われる作風に変化していきます。

さらに、1970年代に入ると‘円’を主題とした ‘惑星’ や ‘連続の溶解 Planets in Orbit’ シリーズ、そして1980年代になると私が最も感銘を受けた ‘連鎖反応’、‘臨界’ シリーズへと発展します。
‘連鎖反応’ は現代音楽で知られる作曲家 武満徹氏の著作 ‘音楽を呼びさますもの(新潮社1985年)’ の表紙(装丁)にもなっています。




これらのシリーズ作品に対して私がイメージするのは、円や水紋のような文様が連続して幾重にも連なる様が、幾何学的でありながらも、何かしら有機的で静かな躍動感を発しているところです。洗練された作品たちは、その場の空気を一瞬にして捉えているかのようです。
過去の大規模な展覧会は1987年に池袋の西武美術館で、2005年に世田谷美術館でそれぞれ開催されました。西武美術館での鑑賞時はまだ学生でしたが、世田谷美術館で彼の晩年の作品を目にした時は、さらに驚きを新たにするとともに、その余韻は今なお 体の奥に残っています。
2004年以降の新シリーズ ‘無意識と意識の間’ です。これらの作品は、抽象絵画や技法といった概念を超え、あらゆる表現の源ともいえる(無我の)意識から描かれたものではないかと思うほど、深く心に刻まれました。



堂本尚郎は、私が現代美術を好きになる契機となった作家であり、また生涯芸術を探求し続けた姿に対し尊敬してやむことはありません。
