1902年香川県生まれの抽象画家 猪熊弦一郎
あえて抽象画家と呼ばせていただくのは、私が彼の80歳代半ば以降の作品しか知らないからであり、それらはいずれも抽象絵画だからです。
猪熊弦一郎は東京美術学校(現 東京芸術大学)洋画科で学び 帝展に出品するなど、小磯良平や脇田和らとともに、いわゆる日本を代表する‘洋画家’でした。
36歳でフランスに渡りマティスの影響を受け、さらに53歳にアメリカに渡り20年間ニューヨークを制作拠点としました。当時はマーク・ロスコやジャスパー・ジョーンズら抽象画家の影響を受けたと思われる作品を残しています。
私が知る猪熊弦一郎の作品は80歳代半ばから90歳で亡くなるまで、ほぼ晩年の6~7年間に制作された 人や鳥、猫などの顔をモチーフにした斬新なタッチの大作です。作品は一見、ピカソやマティス風にも感じますが、猪熊氏独自の作風で 自由でおおらか。ユーモラスでありながら新鮮で洗練されており、とても魅力的です。




現在、猪熊作品の殆どが香川県 ‘丸亀市猪熊弦一郎現代美術館’ に収蔵され公開されています。
私が猪熊作品に初めて触れたのは、ちょうど 彼の最新作 ‘FACESシリーズ’ が東京銀座のギャラリーミキモト(ミキモトホール) で1988年に開催された折りでした。亡くなられた1993年秋にも同ギャラリーで回顧展が開かれました。
今回紹介させていただくのは、いずれもそのとき展示された猪熊氏90歳時の作品です。




多くの作家が 作風や制作様式を定着させていきますが、洋画から具象、具象から抽象、さらに自由画ともいえるように絶えず作風を変貌させ、晩年に至るまで新たな挑戦をしてきた猪熊弦一郎は、画家として理想的な生涯であったと思います。



